◆スヴェン&ミキ◆ 2018ークリスマス

約束の時間は、午後8時。
–これまで彼女を方向音痴とは思っていなかったが、もしかしたらこの分だと道に迷ってでもいるのだろうか。

クリスマス当日の25日が休みが取れそうにないと言うので、イブにあたる24日に約束をした。昼間には自分の方に予定があったため、予約していた店の個室で直接、落ち合おうと。
彼女の返事は明快、「わかった、直接行けば良いんだね!」と元気に答えてくれていて、てっきりもうすぐー早ければ10分前程度には、着くはずだと思っていたのだけれど。

「ーー」

モバイルの履歴を確認しても、特に着信はない。
いつもはポジティブで、滅多に些細な不安に支配されることはないはず…だったが、殊に彼女の事となると話は別だった。

ー迷子にでも?それとも、不慮の事件や事故に?
いや流石に心配する時刻にはまだ早い、せめて約束の時刻を過ぎてから心配しよう。

遠目には彼の姿は、とても落ち着いたものに見える事だろう。
瀟洒な椅子に腰掛けて窓の外の夜景を見遣るその姿の内で、目まぐるしく想い人への不安や焦燥が渦巻いているとは、とても思われない。

ーじっと待つうち、いつのまにか約束の時刻は過ぎていた。
サービスでグラスにシャンパンをあけて貰ったものの口をつける気にもならない。

ーー結局来ることは来るだろう。たとえ遅くなっても。
そう思い直し、グラスを手に取る。細かい泡が溶けて、テーブルセットの燭台の灯にキラキラと細やかに星を写した。

「!」

扉の奥に、騒がしい気配があった。
およそこの個室フレンチの店には似つかわしくない遠慮のない足音と、少し切らせた息の弾む気配。

この気配だけで、彼にはわかった。
ーあぁ、良かった。

ーあぁ遅れた、スヴェン怒ってるかな。
なんとか少し走って挽回したけど、まさか電車で寝過ごすと思わなかった。
気づいたら目的の駅は過ぎていて、すぐ戻っても時間にはギリギリ、多分、間に合わない時刻。

目的の店は案外わかりやすい位置にあって、更に案内もしっかり出ていて、この手の店にしてはとても親切設計。夫の気遣いの店選びが偲ばれる。

「あの、先に夫が。金髪で派手な人なんですけど」

もっと他の言い方はありそうだったが、確実に伝わる言い方を選んだ。
広くはないが落ち着いたインテリアの廊下を案内され、恭しく扉を開けたボーイの示す先を彼女が見るより先に。
部屋に立つ白い姿が愛しい人を迎える。

「遅れてごめ…」
「ミキ、GodJul!」

笑うのが下手な恋人ーいや、今は夫の、自然な笑みをまた見ることが出来た。
ーーでも、一番の良い笑顔はやっぱりハネムーンのあの時かな。あぁ、今のも写真撮るんだった!

「来てくれて良かった、少しだけ待ったよ」
「実は結構待ったんでしょー?あ!心配してちょっと焦ったな?」
「そんな事はーーある。まぁ、でも私が早過ぎたんだ。早く会いたくて」

これは二人の、幸福な聖夜の一欠片。
願わくばこれから毎年、こうして愛しい相手と同じ聖夜を過ごせるように。

この後彼女の非常な食欲を、果たしてこの瀟洒な店が満たせたかどうかはまた、別のお話。

GodJul! 2018
GodJul! 2018